目の前に立ちふさがった青年一人。たかが人間ひとり、この面子ならば恐れることなど無いと普段ならば言えるのだが、相手は教会の有名なアメリカである。こうやって対峙するのは初めてだが、彼の偉業の数々は耳に届いている
 そんな男に目の前の道を塞がれてしまっているのだ。厄介だな、とフランスは一人心の中で呟いた。このまま見逃してくれないかな、などと甘いことを考えていると、目の前の男が懐から武器を取り出していやらしく笑んだ

「ここから先は行かせないよ」

 頑なに自分達と対立するような形で目の前に立ちふさがる青年は薄っすらと笑みを浮かべ。そんな彼に対し腰から下げている愛剣のジャンヌへと手を伸ばした。
 しかしそれが俺に掴まれて鞘から光を鈍く反射させる刀身を覗かせる前にアメリカの出現よりずっと自分達の後ろで佇んでいたイギリスが音もなく軽やかに一歩、前線を踏み越えて訝しげに彼を見つめる敵味方の視線に構わずイギリスは目深く被っていたフードをめくりながら

「退け……アメリカ」

 たった一言だった。
 しかしその一言に、青年の名前、それらに含まれた感情の捻れ具合に俺は気づけなかった。彼の態度に思わず知り合いか?とイギリスの耳元で囁くと彼は無言で浅く頷き対してアメリカの方はレンズの向こうで大きく目を見開いて、まるで信じられないようなものを見るような顔を浮かべていた

「なんで・・・君が、なんで・・・大陸に居るんだっ」

 驚きと言うには痛みの滲むような悲痛な声だった。イギリスを見た瞬間取り乱し始めたアメリカと静かに自分達の前に立つイギリス
 二人の間に流れる空気の重さにぐっと眉をひそめる

「お前にはもう関係ない、・・・早くそこを退けアメリカ」

 目に見えて動揺しているアメリカに対してイギリスは落ち着いていた。否、あれは落ち着いているのではなくただ心を殺しているのだと、俺にはわかった。
 そんな彼にアメリカがぶち切れたように、此方のことなど忘れましたともいえる形相でイギリスを睨みつけ

「ふざけるな!君は何を考えてこんな遠くまでっ」

 一瞬このまま二人を放って、わき道からアメリカを避けさっさと先に進もうかと思ったが、誰もそれを実行しないので恐らく目の前の奇妙なやり取りの結末を見届けるのだろう。律儀なことである。ならば、己もそれに習って皆の疑問を晴らすべく口を開こうではないか

「おい、一体何の話だ?」

 自分の声に反応したのはイギリスではなく、彼を睨みついていたアメリカだった。イギリスに向けていた視線とは全く別物の、それだけで人を殺せそうな眼孔で俺を睨みつけ

「君達がイギリスを連れ出したのか」

 殺気だけで人が殺せそうな程だった。空気が重く、後ろでイタリアがヴェネチアーノが辛そうに呻いていた。彼にはドイツが居るから心配無いだろう。むしろ、心配なのはイギリスのほうだ

「アメリカ、それは違う」
「なら何で!森からこんなに離れた大陸に」

 あぁやはり要領が得られない。首を傾げて二人の言葉の続きを待つ
 第一彼らの関係は一体何だというのだ

「森から出たら君は命が削れ……っ、死んじゃうんだぞ」

 息を噛み締めて、今度は俺が目を見開く番だった。
 今アメリカはなんと言った?冗談か。嘘か。本当か
 敵を惑わすための作戦?それならばいい、しかし演技にしては熱が入りすぎているのではないか
 見ればわかる。アメリカは正気で本気、嘘をつく人間があんな顔をしているのなら俺は世の中全て信じられずに過ごさねばならない
 本気で、これ以上何かあれば泣き出すのではないかと思えるような顔をしたアメリカとは対照的にやはりイギリスは動揺の欠片も見せない表情で立ち、懐から厚みのあるナイフをそっと取り出し、構えた。

「俺は自分の意志で森を出て、ここに居る」

 目の前で繰り広げられる言葉の応酬に徐々に心の中で何かが堪っていく。こちらの事情を知りながら道を譲らないアメリカに対して、そして命に関わる重要なことを何も俺に言わずにいたイギリスに対してだ

「駄目だイギリス!君は早くあの森へ帰らないとっ」

 悲痛な声も虚しく空に上る。
 だが、ここで初めて漸く無に徹していたイギリスの表情がくしゃりと歪んで

「森を、……俺を捨てたお前に干渉されるいわれは」

 しぼんで行く音。一旦音は途切れ一呼吸。聞こえもしないのにイギリスが大きく空気を吸い込んだ音が聞こえた気がした

「無い」

 イギリスの完膚なきまでまでの拒絶の言葉がはっきりと、そしてどこか弱弱しく吐き出され
 アメリカの目に見えない涙が零れ落ちたような気がした











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