「貴様ら人間が立ち入って良い場所ではない。早急に立ち去れ」
数千の兵を前に、たった一人。
脇に聳える小高い崖の上で背中に大きな太陽を背負って、声高らかに叫ぶのは声音からして少年か、青年かざわついた兵達の間から、師団長が返答を述べる
我々に森の理は通じない。
そして光を背負った少年の影が動く。静寂の中、師団長の心臓の上に矢が突き刺さった。それはあまりにも突然のことだった
一瞬何が起こったか誰にもわからず、彼が地面に倒れたことで一斉に兵に怒気が湧き上がった。この状況を作り出したあの森の住人はどうするか。それだけが気になって、自分も兵達同様に彼を見上げた
遠目からでも知覚できるほど濃厚なマナが少年の周りを浮遊し彼の周りを囲むように回る。思わずげっと声が零れ落ちた
「おいおい……あれは、ちょっとまずいだろ」
否、ちょっとどころではなく、大分まずい。マナの強弱でで術者の魔法のレベルは一見してが分かる。彼の周りのマナの量と、そして彼の纏う雰囲気に自分の中の勘がざわめいた。あれは“危険”だ、と
躍起になって崖を登っていく馬鹿や、空を飛ぶ魔法を一心不乱に唱えている奴らを傍らに、自分は何もせずただ愛剣を下げて一種の神々しさを放つ少年に見惚れていた
誰かが自分の肩にぶつかったことで、はっと我に返り改めて崖の上を見れば術式が完成した様子で、大量の光るマナが少年の周りで式状化されていた
彼が背後に太陽を持っていたため眩しく目を細めて見上げていたのに、今ではその必要が無い
太陽が無くなったのだ。
否、消えたわけではない。彼の背後に現れたものの体躯に隠れてしまったのだ。
光を全て受け入れそれらを静かに漂わせながら輝く銀色の鱗。それは剣も魔法も万物を拒絶する王者の証。広げた翼は大空を覆いつくさんばかりに、剥きだしになった牙と空高く上げられた咆哮は否応なしに大気を震え上がらせた
「シルヴァードラゴン?!んな馬鹿なっ」
あり得ない。そうとしか言いようが無かった。ドラゴンなんて見かけるのは火山の噴火口や、地中の奥底、未開の地ぐらいなもので彼らが人間の住処に飛来し天災として恐れられているが、そんな話は数百年に一度あるか無いかの話だ。
夢でも見るような心地だが、呆けている場合でもなかった。しかし、まさか生きている内に“滅びし者”と対峙する事があるとは露にも思わず目にその姿を焼きつけるように見据える。
覇竜の姿を見た途端、声を上げて逃げ出す兵達。しかし、それの前にそのような行動は無に等しい。逃げ切れるわけが無い、ならば戦うしか無いのだがドラゴン相手でも気が引けるのに相手は覇竜クラスじゃドラゴンスレイヤーの存在は必須だ
しかし、散り散りになって逃げまどうこちらを嘲笑うかのように、ドラゴンは大気を飲み込み地獄の炎を吐き出そうと身構えていた
勿体無いが命には代えられない。素早く、懐から古代の名が付く首飾りを取り出し、吐き出されたドラゴンブレスの迫り来る炎に対してそれを掲げる。
希少な首飾りの効力で、此方に熱は届かない。万物を死に貶める金色の炎に囲まれる中、、燃え上がる炎の隙間から確かに見た。
ドラゴンを従えていたのは、まだおどけない顔立ちの青年だったのを
*****
翠の淡い光の溢れる空間。岩が敷き詰められたその地面には光の線で複雑な円陣が描かれている。その円陣の上に十数名のエルフと一人の混ざり者
「本気なのですね」
声をかけたのは一匹の高貴なユニコーン。純白の毛並みに浮遊する淡い灯火を身に纏いながら、そのユニコーンは円陣の外で目を細めた
「ああ。俺が行かなければ他の誰かが行くんだろ?それは嫌だ」
「貴方らしい発言だ。それを私に止める術はない、しかし」
円陣の一番脇、つまりユニコーンの正面に立つ深い森色のフードを被った青年は背負った弓矢をかちゃりと音を立てて背筋を正した。フードから覗く青年の顔立ちはまだ若く、翳りを見せない瞳は生気に満ちていた。しかしその青年見た目よりも幾分年は取っている。月日の感覚が彼と人間とでは異なるからだ
彼は皆にイギリスと呼ばれるエルフと人間のハーフの青年
「分かっていますね?貴方の行く戦地は世界樹の恩恵を受けたこの森ではないということを」
唄うように紡がれる言葉の螺旋。イギリスは何も言わずその言葉を承った
「くれぐれも忘れないように」
「Yes. Her Majesty Queen」
イギリスは恭しく一礼し、ユニコーンの長くとがった角の先に唇を落とした。彼等を囲った魔方陣が一際強く光を帯び、マナが陣を辿るように流れ上へ上って行く
周りから中の様子が伺えないほど光が集結した魔方陣は、天へ雲を突き抜け昇りそして先ほどまで魔方陣の上にいたエルフ達は忽然と姿を消した
緑深い森の静かな雰囲気が一変し、そこは血と火薬と荒々しいマナが飛び交う戦場。聖ロワイヨームの海際にある荒野にエルフ達はいた
「詠唱者は崖際に、彼らの前に弓矢3隊2列横隊で配置しろ。念のため詠唱者背後の警戒に接近戦に対応出来る1隊で警護にあたれ。できれば短術を使える者はこちらに。導術者は崖側と反対の斜面に一人ずつ配置だ」
彼等エルフの居る崖の上から見下ろす荒野では聖ロワイヨームとブリタニア王国の兵達がマナを飛ばし、武器を振るう
森の住民であるエルフは彼らの戦争にはあまり積極的ではなく、ほぼ傍観している節があるが今回は違っていた
この戦争に参加しているブリタニア兵の中に、ユクドラシルの洗礼を受けた者が居た。ユクドラシルの洗礼は森の命、命を共にする誓を立てたならばそれは命を共有する仲間である。ならばエルフは彼を死なせるわけにはいかない。それが古来からの掟、彼らエルフの誇り
「・・・!っ斜面から敵兵複数!騎士団と思われます」
道術士が声を荒げ、叫んだ。中央にいた指揮官が弓矢を高く掲げ、合図とともに無数の矢が空を駆け、戦が始まった
太陽を忘れるような出会い
次でようやく仏英・・・?
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