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 今日はこの国には珍しい晴れ間の覗く天気だった。
 用心に越して持ってきた真っ黒の傘が手持無沙汰に自分の腕にぶら下がって、つまらなさそうに揺れている。

「遅い」

 右手に納まった紙が風に吹かれてくしゃりと鳴る。目の前にある古めかしい家までの道のりが書かれた地図が、自分の代わりに彼の言葉に返事をしたかのようだった。

「ぼさっとしてないで、行くぞ」

 そう言って彼は茫然と立ち尽くす自分にわき目も振れずスタスタと隣を通り過ぎて、車庫の方へと歩いて行ってしまった。男は見慣れたスーツ姿ではなく、シャツにジーパンと言う至ってシンプルな格好をしている。
 わざわざ大陸からやってきた自分に対して労いの言葉もなし、お茶の一つもなし、休憩させてくれても良さそうなのに。不満と呆れを隠しもせずに突っ立っていると、前を歩いていた彼が振り返り「早く来いっ!」と苛立った声を上げたので、過去の嫌な記憶のせいかビシッと背筋が伸び俺はそそくさと彼の元へと駆け寄った。

「早く乗れ」

 足早に駆け寄った先で、彼からそう告げられる。彼自身はさっさと運転席に入ってバタンとドアを閉めた。
しかし、肝心の自分は茫然と目の前の車を見て混乱していた。
 彼が乗り込んだ車は、普段町中を行きかうような乗用車ではない。人間が乗るスペースはふたつの席しか無く、あとは外側に露わになった荷台だけ。こんな車で彼はいったいどこへ自分を連れて行こうとしているのか。心にあった不満と呆れを塗りつぶすように、不安がじんわりと広がって行った。

「おい、スペイン聞こえてんのか?」

 そんな自分に額に青筋を浮かべた男の鋭い眼光が突き刺さる。この場から今すぐにでも逃げだしたい衝動に駆られたが、友が己に頭を深く下げ頼みこんできた姿を思い起こしぐっと堪え、彼に質問に質問で返した。

「なぁイギリス、俺に何させるん。どこに行くんや」

 此方の疑問は当然のはずなのに、イギリスはさらりと「付いてくればわかる」とだけ言い放ち、車のエンジンをかけ始めた。
 このままでは車の後を走ってついてこいとでも言われそうだ、と危機感を持った俺は慌てて助手席に飛び込む。こちらがシートベルトをつけるのを待たずにイギリスはアクセルを踏む。

「お前は大人しく今日一日アイツの代わりに働けばいいんだよ」

 傲慢に言い放つ、隣に座る男の頭を一発ガツンと殴りってやりたいと思ったが、そんなことをすれば倍以上にされて己に帰ってくるであろうと、今までの経験が俺に悲しく囁いた。
 がっくりと項垂れながら、心中で本当ならばここに居るべきはずであった友人を恨んだ。