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ドイツで行われた今回のEU内の会議で配られた資料を整え愛用の鞄の中へと滑りこませて口を閉じた。こわばってしまった体を解すようにぐっと背伸びをすれば、体の節々が小さく音を鳴らしたように聞こえる。今回の会議で更なる議題が増えそれに向けてさまざまな思考があちこちで飛び交い交差した。他の国に後れをとるわけにはいかないのでこちらも早急に手を考えなければ――そう考え、重たい先行きに思わずため息を滲ませながら自国に戻るために立ち上がると眩暈に刹那、襲われる。 眩暈と共に襲ってきた激しい頭痛に思わず手に持っていたカバンを落として頭を抱える。痛みを耐えるように瞼をぎゅっと閉じ、真っ暗な視野の中でくらりと頭が揺さぶられて床と天井の区別も分からず平衡感覚を失った自身の体は無様にも力なく倒れて行った。 頭の奥の奥から湧き上がってくる鈍痛に気が遠くなりそうになりながら、薄く開いた唇の合間からくぐもった吐息と掠れた音をこぼして胃の中にあるものを全て吐きそうになる胸苦しさと脳みそをぐちゃぐちゃにかき混ぜられるような痛みに耐えてみせた。 詰まっていた息を引いていく鈍痛に合わせて吐き出し床に突っ伏していた体を弱弱しく身じろがせ、未だ軽く揺れている脳に舌打ちをしながら落としてしまった鞄を掴もうと腕を彷徨わせる。 指先が何かにコツンっとぶつかり、目当てのものを見つけたと手繰り寄せるようにそれを掴みゆっくりと目を開いた。 「鞄…じゃ、ない?」 靄がかかったかのような脳が鈍く目の前の自身の右腕が掴んだものを認識する。硬さ、感触、重みどれをとっても先ほど自分が落してしまった鞄ではない。明確になってきた視界がとらえたのはくすんだ黒色の革製の鞄ではなく、使い古された様子の短弓だった。 「弓?なんでこんなところに―」 右手に握られた一本の弓に困惑しながら顔を上げ、息を飲み込んだ。 「おいおいどうなってんだ……」 未だ頭の奥にズキズキと余韻を残している眩暈を気にせずにふらりと危うい動作で立ち上がり、どうにかそう呟いた。喉はカラカラに乾いて言葉を発するだけで音の欠片が口腔にべったりと張り付いてしまうような気持ちの悪さが俺に降りかかる。 しかしそれすらも気にならない光景が眼前に広まって、俺は茫然とひとり立ち尽くした。己の両足が立っている地面は青々と葉が生い茂りどこからともなく吹いてくる風にほのかに吹かれ揺れ動いている。当然といえば当然だが、足元でサラサラと鳴いている草花は先ほどまで居た会場の待合室には無かったものだ。頬を撫で、髪を揺らす風も、木々の枝葉から覗く鳥の声も、湿りきった自国独特の空気も、先ほどまで存在していなかった。 「ここは……どこだ?」 カラカラの喉から振り絞って紡がれた言葉は音となり、未知の世界に飛び出す。しかし、その場には俺の言葉に返事をくれる者は誰一人として居てくれなかった。 |