苦しかった。辛かった。悲しかった。泣きたかった。 けれど、こんなもの雷蔵に渡すわけにはいかない。雷蔵にこんな弱い私を見せてはいけない。きっとそうしてしまえば私は雷蔵に捨てられるだろう。雷蔵は興味を失うだろう。雷蔵が私の存在を喰ってしまうだろう。 私は、雷蔵を呼べない。ならば、誰を呼べばいいのだろうか。 呼べる名前なんて無い。 私には、私の世界には鏡しかないのだ。 私の他には誰もいない。だから鏡に映る誰かの顔をした私に向って助けを求めるしかなかった。 誰か、誰か、誰か、誰か、 「―――助けて」 そう呟くと、ひとり、鏡の中の私が振り返る。 私が私の存在に気づいたようで、私が慌てて私に駆け寄ってくる。 大丈夫か?と私が心配そうに言う。 私は全然大丈夫じゃなかったので首を振る。 すると、私がそっと私を抱きしめて、背中を撫ででくれた。 「大丈夫俺がいるから」 そう言って、優しく私を抱いた私の顔を見上げた。 そこには変装した私がいるはずだった。けれど、私を抱く変装した私の腕の温もりは、私とはまったく違って暖かであった。 そこで、ようやく私は、彼が私でないと知った。 彼は本物だ。本物の彼で、私の変装ではない。 私が変装したと思い込んでいた彼は、にんまりと彼にしかできない笑い方をして、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっている私の顔を拭きながら「変な顔だ!」とカラカラ笑っていた。 |
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09/10/25