私はひとり、背中の温もりに困惑する。 それはいつも私が求めて得ている彼らのものとは違い、己よりも若干低く私の体温ばかりを奪いそして残るのは熱の残骸だけ。 普段はあまり接触してこない彼との体温の共有はどこかこそばゆいものがあった。 「…なんなんですか」 「うるさい」 背中に向けて声を飛ばす。 一言で切り捨てられた。 「らしくないですよ」 「うるさいと言っている」 めげずに再び言葉を飛ばす。 これまた綺麗にざっくりと切り捨てられた。 「だって立花先輩が―」 「黙って背中ぐらい貸せんのかお前は」 それでも納得いかないで再三言の葉を飛ばして見せるが、今度は背中の向こうから殺気に似た雰囲気が湧き上がってきたので自然と口を噤んでしまった。 私が黙ってしまうと、私の部屋は途端に無音に支配された。 この部屋のもう一人の主である雷蔵は居ない。つまり、この部屋に居るのは私と、立花仙蔵だけ。 立花仙蔵は私の背中に額を乗せてただただ黙ってそこに居る。 何がしたいのかと尋ねても帰ってくるのはうるさいの言葉だけ。 仕様がないので、私は黙って静かに動かぬ彫刻を演じながら場の空気を探る。 背中を貸せと言ってこの部屋に入ってきた先輩からにじみ出る不穏な雰囲気によって、部屋の温度は二、三度確実に落ちていた。 それでも、どこかこの部屋を流れる時の営みは穏やかで、間逆の性質が混ざり合ってこの部屋の中で溢れかえっているようであった。 |
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09/10/25