「私から接吻されるのと、私に接吻するの、どちらがいいですか?」 それは言葉遊びだ。同じ意味合いの言葉が少々顔色を変えてやってきたに違いない。 なので、俺はそのふたつをキッパリ「どちらも嫌に決まっている」と切り捨てた。 だが、相手はあの鉢屋三郎なのだ。俺の返答など予想の範囲内だろう。まったく顔色を変えず、あっさりと次の言葉を、恐らく奴の頭の中にある常人よりも何倍もある引き出しの中から取り出して、口元からちらりちらりと覗く艶めかしい赤の上に乗せた。 「この場合、先輩が逃げたとみなして私が先輩を掘ろうと思います」 「なんでだ!?」 「そう言う決まりなのです」 楽しそうに鉢屋はにんまりと笑い肩を揺らしながら言う。 真っ赤な耳に紅潮した頬、うるんだ瞳を見れば一目瞭然。鉢屋三郎は酒に酔っていた。 「さぁ先輩大人しくしていてくださいね?」 「ふざけるな!」 「ふざけてなんかいませんって」 「いい加減にしろ、この酔っぱらいめ!」 そう声高く叫ぶと、不意に目の前の鉢屋が動きを止めてじぃっと此方を見つめてくる。 なんとなく、きつく言いすぎたかっとなぜか自分は悪くないのにそう思い始めていると「俺に掘られるのがそんなに嫌ですか」と鉢屋がしょんぼりしながら聞いてきた。 「嫌に決まっとる」 「なら接吻してください」 「だからっ」 「ほら、ここにちゅっと触れるだけでいいんですってば」 そう言って鉢屋が己の唇を指さす。 徐々に近づいてくる鉢屋の顔に後ろに思わず仰け反るが、そこは壁だ。不覚にも後頭部をガツンとぶつけ、とうとう逃げ道もなくなってしまった。 |
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09/10/25