全身が鉛のように、重く自由が利かない。体内の水を枯渇させてしまったのだと、鼻先にある地面の表面を眺めながら何度目かになる反省の言葉を脳内によぎらせた。
 自身の力は体液を使うものなのだから水分の補給は欠かさず行わなければこのように全身から力が削げ落ちて立つことすらままならぬことや、下手をすればそのまま意識を失ってしまうことだって十分に予想がつくことだった。
 それでも、先まで闘っていた相手に対して自分のとれた戦術は捨て身のような、半ば賭けのようなものしか打つ手もなく
 しかし、こうして動けなくなるほどに毒を生産し外界へと昇華させてしまったことは少なからず己の未熟さゆえだ。

 なんとか、敵は倒せた。反省は後にまわし今は早期回復が必須である―そう考えたものの、この地に食料と水があるだろうか。
 相棒でもあるキースがそれらを調達してきてくれることを願うしかない、そう考えた時だった。
 ザワリ、と空気の色が変わる。
 それは恐らく、自然界の生物が自分という毒人間と遭遇した時の同じような感覚だったに違いない。
 いわば圧倒的な畏怖。本能が叫ぶ逃走の声。
 この感覚を残念なことにボクは知っていた。
 過去に一度だけ経験したそれに、知らず乾いた口腔の中に絞り出したような唾液が分泌され、緊張が深く重く全身を這いずった。

(あのGTロボは、洞窟の砂浜の)

 脳髄から心臓から骨髄から全身のありとあらゆる個所から警報が響き渡る。
 これ以上毒を生産することのできない己の状態、そして新たに現れた敵の目的。言わずともわかる。そしてそこから弾き出される危険は、マンモスの体内へと進んだ彼らの命だった。

(ボクが、あいつを倒さないと)

 前回の遭遇の時と同様に全身に降り注ぐ異質感。その上に己の体調のコンディションの悪さが、奴からの重圧に拍車を掛けて、重くのしかかってくる。
 自分が倒さなければ―使命感が萎れそうな精神を奮起させ、再度敵と対峙するための気力となる。
 が、GTロボの視線が己をとらえ、機械という触媒を通し、顔も知らぬ畏怖の対象である操縦者と目があった時、不覚にもボクは


(嗚呼、ボクは)

(奴に――敵わない)


 絶望は甘い果実のように艶やかにボクの心を包み込み、そして花を詰むかのようにボクの心をポッキリと折っていた。








Despair of tart taste


090413