夢のまどろみから引き上げられた
頭の中が『甘い』という単語に支配され、それに伴って口腔の中がむず痒い
不明瞭な意識が徐々に鮮明になってくる
真っ暗闇の中で、口腔に広がる甘さだけが明確だった
ころころと転がる小さな甘み、時折それを追いかけているのか、柔らかいものが舌に触れたり歯茎に触っていく

「っ!?」

ようやく可笑しな現実に気がついて飛び起きる
慌てて身を起こして脇に置いてある愛刀へ手を伸ばすが、空を過ぎっただけで相棒はそこに居なかった
舌に何かが絡みつく。この感触は良く知っていた。舌のあの柔らかな感触。つまり誰かが自分にキスをしていた。それも濃い方の
疲れて眠ってしまったのまでは許容範囲内だが、人の気配に気づかず眠り続けていた自分が許せない
思わず相手の舌を噛み切ってやろうと思ったが顎を固定されていて、それも出来ない。というよりは目の前の細く弧を描いた目を見てそれをやる気も失せてしまった
自分の唇を塞ぐ彼は無邪気に唇を貪っては、舌の上に転がる甘いものと自分の舌と彼の舌を絡めては遊んでいる
いい加減に疲れた、とその舌先に軽く歯を立てるとお返しとばかりに自分の舌先にも彼の八重歯が浅く沈み、ようやく開放された

「ッハ・・・・ったくなんの冗談だ、ベルフェゴール王子?」

冗談任せに、そう言ってやると彼は嬉しそうに口をつりあげて頬を摺り寄せてくる
やらせたいようにやらせながら、一応刀の位置を目先で確認しておいた

「甘かったでしょ?」

ソファをベット代わりに眠りこけていた自分に彼はニマニマとしながらそう言った
まだ舌の上に残る甘味の残骸に浅く頷く

「何食べさせたんだ?」
「んーなんでしょう」

自分が首を傾げたいのに、問いかける彼が首を傾げている
ちなみに、彼はソファに寝そべっている自分の上に起用に馬乗りになっているので自分は彼の重みで苦しくてしょうがない

「わかんねぇよ。教えてくれねぇ?」
「武がキスしてくれたら教えてあげてもいいかな?」

彼はいつも楽しそうに笑っている
自分も彼にとっては玩具なのかもしれない
苦笑交じりに笑って見せて、ゆっくりと彼の首に手を回し顔を引き寄せて口付けた。チュと音を立てて彼の鼻先に

「教えてくれるんだろ」
「今のはキスって言わないんじゃない?」
「言うさ、立派なキスだよ」

愛情こめたんだから。というと彼はきょとんとした顔を見せた後大きな声で笑った(腹の上で暴れるもんだから、こちらは潰れたカエルのような声を出していた)

「コレだよ」

そう言って彼は口を開いて真っ赤なベロを出した
あっかんべーをしているようだ。彼の舌の上には黄色の星が乗っている

「金平糖かぁー」
「せぇーかぁーい」

言葉と共にひょろりと彼の舌が引っ込んで星は流れるように消えていった

「日本のお菓子でしょ?偶然手に入れたから武に食べさせてあげようと思ってさ」
「それなら、普通に食わせてくれよ」
「それじゃ面白くないじゃん?」

笑い声をあげた彼の口の中からガリっと星が砕けた音
なんだか、ものすごく勿体無い気がした

「武も食べる?」

食べる。と返事をする前に口を塞がれていた
ぬるりと進入してきた彼の舌はとても甘い
そのまま、コロリコロリと自分の口の中に星がひとつ、ふたつとやってきた。




080403再録