頭の中が酷く重たく重たく
まるで水を吸ってしまった衣服のように
焦げ付いた匂いだとか、血の香りだとか、そんな馴染みあるものが全て一切思考の中から消え去るぐらい

ひとつ、男の手の中で力なく赤に染められて
ひとつ、地面に転がる肉体は焼け焦げ燻った臭いを香らせて

幼さを見せる顔は紛れも無く10年前の彼

嗚呼。自分の中で何かが弾けた
そう、目の前の男は問答無用で

「殺す」










体が痺れて動けない
そう言うと、自分よりも背が高くて違和感のある雲雀が無言で肩を貸してくれた
これはちょっと、いや、大分驚いた
だってあの雲雀が
ちょっとたじろぎながら、ちらちらと横にある彼の顔を盗み見
さすが10年経っているだけあって顔立ちも変わっている
だけど、やっぱり雲雀は雲雀で
そんなこと考えていると不意に雲雀が此方に目線を寄越して「なに」と言った
鋭い瞳と視線がかち合って、ドキリとしたのを必死で隠し

「いや、雲雀だなーって」
「訳分からないよ」
「ははは、そうか?ってて・・・」
「大人しくしといて」

笑うこと内臓が軋んだ
どうやら大分体のあちこちやられているようで、なんとも情けない
しかしそれ以上に雲雀の口から飛び出た言葉に目を見開く

「さっきからコロコロ変わる顔だね
「いや、あーうん。なんか」
「なに」
「雲雀変わったな」

そう雲雀は変わったのだ
この10年で何があったのか予想もつかないけれど、
でも確かに雲雀は何か変わっていた

「君だよ」
「え、」
「君が僕を変えたんだ。武」

正面を向いたまま、そう言われて
固まった思考の中で繰り返される彼の口から出た言葉
何が言いたいのかなんて分からないけれど、でも
物凄く嬉しい
思わず笑い出してしまい、思いっきり傷口に響いて悶えた




080403再録