「君は今の状況をどれだけ理解しているのかな」
それは本当に純粋な興味だったかもしれない
いつだって笑みを浮かべ人と接してきた少年が、父親の死をしって、未来で豆だらけの手が血で濡れている事実を知って一体何を思ったか
「全部、坊主から聞いた」
「聞き方が悪かったね。君は未来を知って何を考えてる?」
そう言うと彼はチラリと此方を見上げて直ぐに顔を逸らして他所に視線を彷徨わす
そんな幼い日の彼の横顔を眺めながら次の言葉を待つ
「そうだな、・・・よく分からない。かな」
そう言って虚空に向けて空笑いする
それは、この時代の彼のものと同じ
この年から彼はあんな笑い方をしていたのか、と思い知らされ
無意味に腹が立った
「僕に嘘は通じないよ」
昔からそうだっただろ。そう言うと、彼はちょっとだけ驚いた様子で目を見開いて、やっぱりからからと渇いた笑みを浮かべて。それでも目は笑っていない笑みを
「誤魔化されてくれないんスね」
「僕を欺くなんて、100年早いよ」
「はは、雲雀らしい」
渇いた笑みは次第に微弱に、そして音も無く途切れ地面に転がる
それをぼんやり眺める彼と、そんな彼を眺める僕
向かい合った廊下は末永く続いて暗闇へ溶け込んでいる
そんな中で、まるで2人だけの世界に放置されたような気分
「雲雀は、」
「なに?」
「俺がどう思ってると思ってるんだ?」
「質問に質問で返すのは好きじゃないよ」
そうは言っても、目の前の少年が余りに真剣な眼差しで
否、彼は何時だって笑いながら、目だけは何か見出そうと鋭く光っていたではないか
「でも、答えてあげる」
ふっと笑みを零し、その目に免じて
そう心の中で付け加えてゆっくりと口を開いた
「父親の敵を討とうと思ってるでしょう」
そう言うと彼は、驚いた顔もせず、笑いもせず、怒りもせず
「どうして雲雀にはばれるんだろうなぁ」
心底困ったような顔をしてそう言った
彼は本当に平和ボケしたこの国の中学二年生だろうか
どこか違う、それは10年経っている今でも変わらない事実だが
何かが山本武の中では欠落しているのではないか、と。そんなことを10年の付き合いの中で密やかに感じ、そしていつもたどり着く答えは一緒だった
( そ れ は 自 分 も 同 じ で は な い か )
080403再録