「お前がいるからっ」
そう言って突きつけられたのは黒光りする人殺しの道具だった
仲のいい友人の姉である彼女をいつのまにか眼で追うようになった
長いマロン色の髪を揺らして、彼女はモデルのように歩く
そして、彼女の歩いた後には何故か腐りきった食べ物が道を多い尽くすように落ちて
俺はそれを躊躇もなく踏み潰して彼女の細い足先を見つめ
彼女の行く末を見据えようと躍起になった
彼女の足が進む先はいつも決まっていた
黒いスーツに黒い帽子、小さな子供には似合わないはずなのに、その少年には酷くお似合いな真っ黒な衣服
小さいころから見慣れているせいか、いやそうではない
彼は黒の似合う者なんだ
彼女は、少年の前だけで笑い、甘い声で愛を囁き、彼のためならば。と何でもこなしてみせた
これが彼女の言う愛の力というものなんだろう
彼女の持つ食べ物と言えない食べ物を見ながらぼんやりとそう、悟った
そんな彼女は今
何故か自分の腹の上に座って
冷たいフローリングの床が体温を奪う
切なげな目でこちらを見下ろしながら、眉間に銃口を押し付けている
自分の武器である刀は手の届かないソファの向こう側
「なんの真似ですか、ビアンキさん」
驚いたのは、妙に落ち着いている自分
それが贋物だと知っているからとかそう言うことではなくて
彼女の眼を見ればわかる、本気で俺を殺そうとしているんだって
「貴方がいるから、貴方さえいなければ・・・」
指先は震えていないのに、声は震えている
赤ん坊の前で愛を呟く甘い声とは全く違う、冷え冷えとした声が
「貴方が死ねば、リボーンはっ」
カチっと音がした
おそらく安全装置とかいうものが外された音だろう
なんで、自分はこんなに冷静なのかわからない
だが、それがなんとなく可笑しかった
「俺は邪魔ですか」
高低の無い音
ジッと見つめる先には化粧をした彼女の顔
ゆっくりと手を伸ばして、彼女の頬に触れた
「ビアンキ姉さんに殺されるなら、俺は−−−」
言葉は轟いた銃声に掻き消された
目の前で弾きとんだ黒と、頬に飛んできた生暖かい血の感触
呆然と倒れていく、姿に大きな声で彼女の名前を叫んだ
右肩を抑えてうずまる彼女「大丈夫ですか?!」っと叫ぶと、ジロリと睨みつけられた
「・・・ムカつくわ、その顔」
そう言って一筋涙を零して「悔しい」っと呟いた
何が、っと問いかける前に答えを見つけた
自分と彼女の直線上に立つ小さな影
その手には未だ熱を持ち、白煙を上げる銃が収まっていて
「なんで・・・だ」
声が震えていた
さきほど、自分に銃口を突きつけていたときの彼女と同じように
「お前を殺そうとした」
ポツリと零された言葉に泣きそうになった
握り絞めた拳は震えて、どうしようもない思いが力になり、掌に己の爪が傷をつくった
「山本に銃を向けるなら、そいつは俺の敵だ」
そう言って近づいてくる少年
咄嗟に、倒れた彼女の前に立つ
自分の目の前に来て、背の高い自分を見上げた少年は、床に転がる彼女を一瞥して再び俺を見上げた
何か言いたそうに一度口を開いたが、彼はそれを言葉にすることなく唇と閉じ
硬く握り締めた己の拳をやんわりと、小さな手で解きそのまま掴み歩き出した
「待て、リボーン。ビアンキ姉さんが・・・」
「放っておけ、あの程度の傷じゃ死ぬことは無い」
それでも、傷口から菌でも入ったら。そんな事を言おうと思って口を開いたが
首を少し動かしてこちらを見た少年の眼を見て、何もいえなくなった
鋭く光る眼光、怒りやら嫉妬やら憎しみとか、そんなのが入り混じっていて
力強く握られた手は熱く、それに引かれて彼女から遠ざかった
振り返れば小さな血溜まりの上に彼女は立ち上がり、こちらを見つめていた
泣きそうな顔で、少年を見て
増怨に満ちた視線で自分を射抜く
思わず顔を逸らして下を向く
前に進む自分の足と彼の足
?いだ手から、ぽたりと赤い血が一滴地面に落ちていった
愛と憎悪の銃口
080403再録