星だけが無限に広がる空に無数に散らばって、彼らから見ればちっぽけ過ぎるこの地上を淡く照らし出していた
集合地は学校、門のところにたどり着き足を止める
まだ、誰も居なかった

「まだ、肌寒いな・・・」

誰に言うわけでもなく、少しだけ自分の熱を奪っていく外気に向けて呟いた言葉
不意に上を見上げれば沢山の星と目が合った
彼らはどんな事を思って自分達を照らしだしているのだろう
小さく瞬く星が、どこか自分を嘲笑っているように思えた

「...山本」

「あ、笹川先輩」

視線を下へ下ろしていく
そのまま門の向こうの道から此方へ歩み寄るクラスメイトの兄を見た
痛々しい白い包帯が夜の暗闇にさえて見えた

「傷はいいんですか?」

「うむ、観戦に支障はない」

「そうですか」

そこで自分達の間に会話は途絶えた
まだツナたちは来ない
する事もないので再び空を見上げる
溢れかえる星たちが見下していた
どこかこそばゆい気持ちが胸の中を一巡りして、なぜか無性に泣きたくなった

「怖いか」

「え」

声のほうを見れば、先日の戦闘のときのように真剣な瞳と目が合った
べつにやましい事があるわけでもないのに、その瞳にたじろいだ

「怖いか?」

今度は疑問系で
その問いかけにどう答えるべきか悩みながら僅かに口を開く

「お前は恐れていないな、山本」

図星なのかもしれない
たしかに自分は怖いとも思っていないし、相手を恐れてもいなかった
血の濃い臭いしかしない喧嘩でもない、命のやり取りなのに

「俺は怖かった。しかし負けるわけにはいかなかった」

「・・・」

「俺は−−−」

夜空の下
星達に監視される夜
彼らしくない小さな声は肌寒い風と共に

「笹川先輩・・・俺は」

「いや、いい。今のことは忘れてくれ山本」

誤魔化すようにはにかんだ笑顔を浮かべて、彼は「沢田はまだか?!」っといつものように意味もなく大きな声で喋り始めた
俺は彼の名前を呼んで、一体何を彼へ伝えるつもりだったのか

直ぐにツナたちの声が静かな夜の空気を伝わって聞こえてきた
こちらに気づいたツナに声をかければ驚いたように名前を呼んだ
肩にはいつものように坊主が乗っかって
この先に待ち構えるバトルについてあれこれ言い合いながら校舎の中へ入っていく
一言二言言葉を放つものの頭の中では先ほど笹川先輩に言われた言葉が繰り返し繰り返しリピートされていた
ボーっとしていたのか、坊主が心配そうに自分の名前を呼んで頬を軽く叩いた
現実に帰ったような感覚に軽く眩暈を覚えながら、隣にある坊主の頭を撫でて微笑んだ













「俺はこの先に待ち構えている死戦に臆さないお前が、誰よりも 恐ろしい」




080403再録