雨の振る中、二人の男が血に濡れた体で突っ立っている
両者共に、雨の名前を冠っている二人であった
二人のその手に持った武器には人を斬った真っ赤な証が滴り、しかし二人はそれを気にする素振りも無かった

「俺さ、前からお前に言いたかったことがあるんだ。ものすごく殺伐としてて・・・上手く言い表せねぇと思うんだけど」
「あ゛ぁ?」
「俺が一番最初に殺したのはお前だ」
「・・・俺は生きてるぞ」
「まぁ気持ちの問題としてだよ」

そういって彼は手に持っていた日本刀を背中に背負った鞘の中へ戻した
キンと鋭い音がして、収まったそれを見届けながらもう一人は彼の言葉の続きを黙って待っていた

「俺さ、お前を助けられなくて凄い悔しかった」
「で?」
「せっかちだな・・・でもな、反面」

言葉を区切って彼は歩き出した
一歩で遅れた彼には男の表情は見えない

「人を殺したことに驚喜してた」

その声は飾り気の無い平坦な声だった
従って、後ろを歩く彼には男の意が掴みきれなかった

「すげぇ、悲しかったのに、興奮してた自分も居た」

一定の速度で前を歩く男の背中を見ながら彼は考えた
たしか、あの時目の前の彼は14歳。この世界では人を殺しても珍しくない時期ではあるけれど、問題は彼を取り巻く環境である
確かに彼は平和ボケした国の一般的にそこらへんにいる学生であった
そんな彼が命を懸けた戦いの結果に心を痛めるのは理解できる。ただ、それに快感を得る感性には感心できない

「お゛い山本・・・」
「坊主がな、前に言ってたんだってさ。俺は『生まれながらの殺し屋』なんだって」

ここで彼が笑ってくれたら、
そう思ったのに、山本は後ろを振り返ることも無くましてや、笑いかけることも無く
ただ、血塗れた靴底で赤い足跡を作りながら雨の中を静かに進んでいた

「だからなスクアーロ、ごめんな?」

そういってやっと彼は立ち止まり振り返った
雨に濡れた髪の毛はじっとりと額に張り付いて、潤んだ漆黒の瞳がふたつ

「そんで、ありがとうな。生きててくれて。たぶんだけど、スクアーロが生きてなかったら俺は道を踏み外してた・・・・きっとここには居ない」
「・・・・・・・・くだらねぇ。帰るぞ」

乱暴に彼の左手を掴んで歩き出す
降り注ぐ雨のせいで地面がぬかるんで酷く歩きづらかった
後ろの彼からは驚いた気配がしっとりと伝わっていたけれど、気にする素振りを見せていなかったら暫くして、背後から押し殺したような笑いが零れ始めた。




080403再録