「山本」

ツナの口から紡がれた音は俺の名前だったので、弾んだ仕草で後ろを振り返る。そこには当たり前だがツナの姿があって、それを俺は見た
驚いたことに、彼の表情は固く強張っている。どうしたものかと、近づいて少しだけ屈んでツナの顔を覗き込み彼の名前を呼びかけてみた
ツナの両目には自分の顔が歪んで小さく映っていた。ちょっと間抜けな顔をしている。けれどツナの脳味噌までこの間抜けな像は行き届いているのだろうか、と不安になる。まったくこれと言ったリアクションが無いからだ

「やまも と、」
「ん、なんだ?」

まるで母親に自分の悪事を告白する幼子のような雰囲気で、ツナは俯いていた顔をあげ正面から俺を見据える。毎度思うのだが、彼の目は鋭い光を灯していて正面から向き合うと、どこか後ろめたく感じてしまう(そんな必要はないのだけれど)

「ごめん」

ツナの口から謝罪の言葉が告げられると、そのままどんと突き飛ばされた。ソファの上に
背中から柔らかな生地に沈み、そのまま跳ねる。ぼんやりとこれらから先に起こる事を想像していると、ツナが上に圧し掛かっていた。
彼の指は器用に自身のネクタイを解きながら、なおかつツナはこちらに近づいて軽い接吻を額に頬に瞼に、と落としてくる
ツナがこうなった原因は分かる。彼は少し前に殺すか殺されるかの瀬戸際に立っていた。人は死ぬ間際になると、よく発情するらしい。
前にも一度、血塗れた彼に抱かれた経験はあったのでさして抵抗するわけでもなく、反対に甘受して誘うように口付けるツナの首に腕を回した




080403再録