勝手に体が動いた
攻撃を受けた刀身は難なくその身を二つに砕けて散った
体を抉るような痛みに思い浮かんだのは

(やばい、怒られる)

なんて、自分の身の安全とか、目の前の敵のことではなくて
自分が無意識に庇ってしまった対象であるボスの機嫌であった

ものの数分と経たないうちにあっけなく幕は下りた
息をしているのは自分と彼だけと言う明確な割り振り
つまるところ敵は殲滅された。うちのボスの手によって

(怒ると怖いんだよな。途轍もなく)

敵に同情してしまうほど、彼は圧倒的で。
その怒りの矛先が次には自分に向けられるのを覚悟して息を吐き出した
痛みは気にならない。それよりもボスの顔色のほうが気になりしょうがない
視界が陰る。俯いて丸くなった自分がボスの影の中にすっぽりと納まった
しかし、それだけ。他に何も変わらない
ただそこで時間が流れていくだけ
どうしたんだろう。怪我でもしたのか。否彼に限ってそれは無い
どこかまどろむ意識の中でとりとめもなく思考を徘徊させていると、ふと目の前に雨が落ちてきた。ポタリポタリト乾いた地面に小さな水滴がしみこんでは消えてゆく
自分は雨を降らせていない。なら自然の雨か。の割には当たりは明るく日差しが痛いほど背中を焼いていた
なら、これは何

「ツナ・・・・?」

重たい顔を上げた
そこに居た彼は

泣いていた

いけない。これは駄目だ
どこかでとても焦っている自分が居る
重たい体に鞭打って立ち上がった

「ごめん、ツナ。ごめん。俺が悪かった」
「違う、山本は悪くない。悪いのは」

その先を言わせてはいけない
彼は自分達の上に立つべき存在で、そんな彼が自分の命などでそんな台詞を吐かせてはいけない
そんなことをぐるぐると考えていれば、咄嗟に彼の唇に接吻を落として先の言葉を止めていた
触れるだけの幼稚なキスだったけれど、それでも十分な意味を成したようで、唇を離した後のツナは言葉も無くただ立ちすくんでいた

「俺な、ツナのこと大好きなんだ」
「・・・え、・・・え?」
「悪いと思ってるけど、間違ってるなんて全然これっぽっちも思ってない。後悔もしない」
「やま・・・もと」
「だから、さ」

ちょっと無理をしすぎたみたいだった
血が足りないせいで体が傾き始めている
フラリと揺れた自分を俺よりも小さいツナが支えてくれた

「笑って許してくれねぇかな?」

ついでに怒ってるツナは怖いんだよーと語尾を延ばして笑みを浮かべると、目を見開いて数回瞬きをした後、ツナが笑って脳天に拳骨を下した
一瞬敵に受けた傷の痛みを遥かに凌駕する痛みが頭を揺らしてきた

「うん、これで許してあげる」

ツナが笑って唇に触れるだけのキスをした
彼が離れてもう一度笑みを浮かべたのを見て、自分もネジが外れたように笑い出した





080403再録