俺にとってツナは無くてはならない存在になっていた
いつも、彼のために何が出来るか。彼の役に立とうと必死になって考えて考えて、そしてそれに見合うほどの力もつけてきたつもりだった
本当に、ただ俺は彼の役に立ちたかっただけだった
だけど、ツナは俺が彼の役に立つたびに、喜びと謝辞の裏にいつも密やかな悲しみを抱えていることにも気づいていた
ツナは優しい人間だから自分のせいで誰かが傷つくのを極端に嫌っていた
例外なく俺もその対象に含まれており、俺が人を殺める度に彼は泣かない自分の代わりにひっそりと涙を流した
「俺は最低だね」
いつの日か、そう言って悲しそうに微笑んだツナの顔が今でも脳裏にこびり付いて離れない
俺は戸惑った。なんと、声をかけていいのか悩み、口を半端に開いて翳んだ吐息だけ出入りさせた
そして彼は掠れた声で俺の名前を口にして頼りない動作で抱きついてきた
背の低い彼だけど、その腕はしっかりと自分の体を抱き包んでいた
「少しの間だけ」
胸元で零された言葉に俺はなす術も無く、ただ間抜けな顔をして頷いた。おずおずと自分よりも小さな体のツナを抱き返して、人の温もりになぜか驚いた
最近冷たくなってゆく体にしか触れていなかったのに思い至り、彼の体がそうなることを想像して怖くなった
「ごめんね、山本」
暫くして彼はそう言って静かに体を離した
いきなり抱きついたたことへの謝罪なのか、それともまったく別のことへの謝罪なのか、馬鹿な自分にはわからなかった
けれど、俺はツナに向かってただ確かなことを伝えた
「ツナ、『ごめん』じゃなくて『ありがとう』な」
そう言って笑いながら彼の頭をぐしゃぐしゃにしてやった
驚いた声を上げて、戸惑いつつも笑い声を上げるツナの目尻に小さな雫が光ったのを、俺は気がつかない振りをして笑っていた
080403再録