太陽に手を翳してみると、ドクドクと動く血流が張り巡らされているのに気づく。ぼんやりとそれを眺めながら、彼は人の器さえも関係無しに中を覗く事が出来るのかと知った。
 俺は、太陽が怖いと思った。
 だから、雨を降らす。太陽は姿を消した。そのうち太陽に焦がれるようになった。けれど、何もかも見透かされてしまうのが怖くて、恐ろしくて、太陽の前に出る事がいつの間にか出来なくなっていた。







太陽




 ツナに言われた。「山本は俺の事が嫌いになったの?」と
 俺は違うと言った。ツナのことを俺が嫌うはずが無いと言いきれるから。けれど、ツナは悲しそうな顔をしたまま「それじゃあ―」と言葉を続けて

「なんで、俺のこと避けてるの」

 とても辛そうに、悲しそうに、ツナは言った。俺がツナを翳らせてしまっていると気づき、慌てた。ツナは皆を暖かく照らしている存在なのに、俺なんかのためにそんな顔をさせてはいけないと、心の片隅で大きく警報機がジリリリリリと鳴り響く。
 しかし、俺はその警報機を止める術を知らない。だって学校の火災を知らせる真っ赤な警報機だって、誰かが悪戯で押したとしても周りの奴らとざわついているうちに何事も無かったようにぴったりと止まるから、俺はそれの止め方を知らない。

「最近忙しかったから、顔を合わす機会が少なかっただけだろ?」

 そう言ってニカっと笑ってみた。警報機の音は耳のずっと奥のほうで確かにまだ響いていたけど、気にしなければ気にならない。無いものと同じだ。
 けど、ツナが怒ったように目を細めた。瞬間また大きく警報機がなり始めた。五月蝿いけどこの警報には何かしら理由があるはずだった。俺には分からない理由が。

「山本は俺に嘘をついてる」
「嘘なんか、ついてないさ」
「ううん、俺にはわかるよ」

 頭上で、真っ赤に燃え上がりとても熱くて眩しくて大きいのに、彼はしたたかで静かな炎も持っていた。ユラユラと静かに揺れる彼の瞳に映る炎。なんだって見透かしてしまう太陽の火だ。俺が焦がれ、恐れ、愛し、忌み、憧れる、太陽がそこで確かに存在していた。

「山本は、俺が嫌いだから嘘をつくの?」
「俺はツナが好きだ、尊敬してるし、信頼もしてる」
「けど、嘘はつくんだね」

 ツナは俺が苦手な顔をして、微笑んだ(とても痛そうな笑みだ)
 俺はほとほと困ってしまう。俺には太陽を直視することは出来ない。雨はいつだって暗雲を間に挟んで太陽に恋焦がれているのだから。
 だから、俺はツナを見ると、ツナと話すと、ツナと寝ると、どうして、どうしても、あの分厚くてねずみ色をした雲に擦り寄って縋ってしまうのだ。太陽が辛い、太陽が痛い、太陽に、太陽に、病んでしまう。と




080423